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照射馬鈴薯の安全性

照射馬鈴薯の2-アルキルシクロブタノン類の発がんプロモーター活性について

馬鈴薯のガンマ線照射は厚生労働省が認可している技術であり、WHOをはじめEU各国の食品安全当局は、いずれの照射食品においても2-アルキルシクロブタノン類に由来する毒性発現を理由とした健康影響は認められないと、照射食品の安全性を宣言しています。

馬鈴薯の脂質含量は、肉類など他の照射食品に比べて非常に低く、また、芽止め線量は肉類の殺菌線量よりも小さいため、照射馬鈴薯に生成する2-アルキルシクロブタノン類の含量は極めて微量と考えられます。実際に照射馬鈴薯中に2-アルキルシクロブタノン類を検出したという報告はありません。

 解説

1kGyの放射線照射によって脂肪酸から生成する2-アルキルシクロブタノン類の量は、照射温度や脂質の種類によって変動はあるが、Marchioniらが2002年に報告した結果では、脂肪酸mmole当り0.2nmole~12nmoleの範囲になる1)。 つまり、2-アルキルシクロブタノン類の生成量は、1kGy の照射では元の脂肪酸の500万分の1~8万分の1以下の割合の微量な生成物であることがわかる。
また、同一条件下では、照射した線量と2-アルキルシクロブタノン類の生成量には直線的な比例関係が成り立つので1)~3)、食品を照射した際に生成する2-アルキルシクロブタノン類のおおよその濃度は、線量と脂肪酸量を考慮すれば予測することが可能である。
馬鈴薯の脂質含量は、100g可食部あたり0.1gで、脂肪酸量は30㎎程度であり4)、芽止めに使うガンマ線は150Gy(0.15kGy)が最大値であるから、100gの馬鈴薯中に生成する2-アルキルシクロブタノン類は、かなり多めに見積もっても、30㎎×0.15×1/80000=56ng程度と推察される。仮に体重60㎏の大人が毎日100gの馬鈴薯を食べるとすると、推定摂取量は、56ng÷60kg≒1ng/kg・dayとなる。
照射鶏肉(58kGy)を2年間マウスに経口投与した毒性実験5)では、マウス体重当たりの2-アルキルシクロブタノンの摂取量は、250μg/kg・dayと見積もられている6)。これは毎日100gの照射馬鈴薯を摂取した時の25万倍になる。
また、発がんプロモーター活性の可能性を提示した実験7)では、2-アルキルシクロブタノン類のラットへの投与量が3.2 ㎎/kg・dayであり、照射馬鈴薯の320万倍となる。
これらの実験で、マウスやラットが摂取した2-アルキルシクロブタノン類の量は、大人が毎日100gの馬鈴薯を25万個あるいは320万個食べた場合と同等になる。これは極めて非現実的であり、照射馬鈴薯中の2-アルキルシクロブタノン類の生成についての議論には意味がないことがわかる。

1) Marchioni E et al. Determination of 2-alkylcyclobitanones in irradiated Food. in Burnouf “Etude toxicologique transfrontaliere destinee a evaluer le risqueencouru lors de la consummation d'aliments gras ionizes. ” p.46-46 (2002).    
http://www.mri.bund.de/fileadmin/Veroeffentlichungen/Archiv/Schriftenreihe_Berichte/bfe-r-02-02.pdf
2) 尾花裕孝. 2-アルキルシクロブタノン分析と照射食品の検知. 食品照射, 43(1-2), p.37-45(2008).
3) 照射食品食品中の2-シクロブタノン類の検出と定量に関する文献リスト
4) 食品成分データベース(文部科学省)
http://fooddb.mext.go.jp/
5) Thayer D. W. et al.  Toxicology studies of irradiation-sterilized chicken. J. Food Prot.. 50, p.278-288(1987).

6) Marchioni E et al. Determination of 2-alkylcyclobitanones in irradiated Food. in Burnouf “Etude toxicologique transfrontaliere destinee a evaluer le risqueencouru lors de la consummation d'aliments gras ionizes. ” p.53-54 (2002)
7) Raul F. et al. Food-borne radiolytic compounds(2-alkylcyclobutanones) may promote experimental colon carcinogenesis. Nutr. Cancer.. 44 (2), p.88-191(2002).